光学図面の基礎(4)

〜泡と異物の公差〜
このコード番号は1ですね。


図1.要目表(再掲)
そうです。
で、何を書けばいいんですか??
例えば、
 1 / 2 × 0.25
というように、「最大許容寸法をもつ泡及び異物の許容個数」×「段階数」を記載します。
段階数??
段階数は、「最大に許容される泡及び/又は異物の投影面積の平方根をmmで表したもの」と定義されています。
何だか、間怠っこしい定義ですね。そうすると、上の例の場合、0.0625mm2の泡(異物)が2個までは許容できるってことですね。
それも正解です。
も??他にも正解があるんですか??
定義をもう一度見てください。「最大許容寸法をもつ」って書かれてますよね??つまり、それより小さい寸法の泡(異物)も許容できます。
なるほど。その場合も2個なんですか??
いえ。例えば、段階数が0.16mmの場合だと、2×0.252÷0.162≒5、つまり5個までは許容できる計算になります。
教授。ちょっと待ってください。段階数が0.16mm??何で、そんな半端な数値なんですか??0.1mmとか0.2mmで計算しちゃダメなんですか??
鋭いですね。実は、段階数は決まった数字があって、勝手に選べないんですよ。これは、この公差の非常に厄介なところですね。
そんなことじゃないかなぁと思いました。
いま、次のようなスケールを考え、
 …、\(p^{-6}\)、\(p^{-5}\)、\(p^{-4}\)、…、\(p^{-1}\)、\(1\)、\(p\)、\(p^2\)、…
\(p^{-5}\)=0.01mm2としましょう。
そうすると、\(p\)=2.512ですね。
ということは、このスケールは具体的には、
 …、0.01mm2、0.0256mm2、0.0625mm2、0.16mm2、0.3969mm2、1mm2、2.56mm2、…
となります。ここで例えば、"0.0625mm2、0.16mm2、0.3969mm2、1mm2"の括りに注目すると、当然のことながら、
 16×0.0625mm2 ≒ 6.3×0.16mm2 ≒ 2.5×0.3969mm2 ≒ 1×1mm2
が成立します。
教授。この関係は、連続する4つの項の間で常に成立しませんか??
そのとおりです。
 \(16 \times A \fallingdotseq 6.3 \times B \fallingdotseq 2.5 \times C \fallingdotseq 1 \times D\)
という関係は常に成立します。これは、\(D\)[mm2]の面積の泡(異物)が1個という状況は、\(C\)[mm2]の面積の泡(異物)が2.5個という状況と同じである、というふうに読むことができます。
あ〜、そっか。さっきの例で、40×0.0256mm2も同じ結果になるのになぁ、って思ってたけど、これだと40個も数えないといけないって意味になるから、省いたわけですね。でも、2.5個って、どうやって数えるんですか??
その場合は、小数点以下を切り捨てます。
つまり、2個ってことですね。
ここで、1、2.5、6.3、16という数値を倍数因子と呼ぶことにします。
最初の例だと、2 × 0.25となっていたから、倍数因子は2、5、12.6、32というふうに読み替えればいいわけですね。
先ほどの指摘にもあったように、倍数因子に対しては、スケールの連続した4つの項の間で、合計面積が等しいという関係が成立します。よって、次のような表が作成できます。


図2.スケールと倍数因子の関係
スケールが小さくなると、小数点以下の0の数が増えて、見にくいですね…。
しかも、面積だと、大きさの感覚が掴みづらいですよね??そこで、図2の面積の平方根をとった図3を一般的には用います。


図3.段階数と倍数因子の関係
すっきりしましたね。
ところが、図3だと倍数因子との関係が見えなくなってしまうんですよ。これが、図3だけ見てパッと理解するときの妨げになっています。
うっ。確かに、そうですね…。教授。泡(異物)の大きさはいろいろあると思うんですけど、例えば0.2mmだったら、どう考えればいいんですか??
その場合は、その寸法よりも大きく、その寸法に最も近い段階数として取り扱います。つまり、0.2mmだったら、0.25mmとみなすわけです。
大きさの異なる泡(異物)が混在している場合はどうしましょう??
そのときは、組み合わせの合計で考えます。例えば泡と異物の公差が、
 1 / 2 × 0.25
で与えられていた場合、最大面積は0.125mm2ですから、0.16の泡(異物)が3個、0.10の泡(異物)が3個、0.063の泡(異物)が4個だとすると、
 0.162×3+0.102×3+0.0632×4 = 0.122676mm2
となり、0.125mm2よりも小さいのでOKと判断します。
ひえ〜。面倒ですね〜。寸法がどんどん小さくなったら、許容できる個数も多くなってくるから、計算するのがしんどくなりますね。
こういう組み合わせの場合、"0.16×段階数"以下の小さな泡(異物)は無視してよいことになってます。
この場合だと、0.16×0.25 = 0.04mm以下の泡(異物)は無視ってこと??
そういうことです。
あれ??でも、よく考えたら、泡(異物)が2個だったとしても、その2個が凄く接近していた場合、大きな泡(異物)が1個あるのと、大差ないんじゃないですか??
鋭い指摘ですね。そういう状況は集中と言って禁止されています。
どこまで接近したらダメなんですか??
許容個数の20%を超える泡(異物)が光学的有効径(有効範囲)の任意の5%の部分に見出されるとき、集中が起こっていると判断します。

〜背後にある考え方〜
どうして、この公差はこんな面倒な方法にしたんですかね??
理由は2つあります。泡(異物)があると、光学素子を光が透過するときに散乱します。


図4.散乱の様子
泡(異物)が、キラキラして見えますね。
左から光を照射したときに、すべて右に抜けるのではなく、泡(異物)に当たって紙面から飛び出す側(光の進行方向に対して90°の方向)に光が散乱するので、キラキラ見えるんですよ。そして、この散乱した光は、筐体の内部でいろいろなところに反射して悪さをするのです。迷光、Flare光、或いはGhost光と言ったりもしますね。
幽霊??う〜ん、悪霊は退散させないといけませんね!!
というわけで、適切な公差を設定する必要があるんですが、光の進行方向に対して90°の方向の散乱光強度は、泡(異物)の形状を理想球形と仮定すると、ここで対象としている泡(異物)の段階数であれば、可視光領域の波長によらず、その半径の2乗に概ね比例します。
ということは、面積\(S\)の泡(異物)1個の散乱光強度と、面積\(\cfrac{S}{n}\)の泡(異物)\(n\)個の散乱光強度は等しいことになりますね??だから、面積の合計で議論した方が見通しがよくなるのです。これが理由の1つ目ですね。
2つ目は??
それでは、ここで1つ質問しましょう。図5のような結像系を考え、


図5.結像系

レンズの下半分だけ遮光した場合、実像はどうなると思いますか??
こういう問題は作図すると簡単ですね。


図6.遮蔽した場合

だから、明るさが半分になります。
そうすると、レンズの中に泡(異物)がある場合、その合計面積だけ実像の明るさが減ると考えられますね??この観点からも、面積の合計で議論した方が見通しがよいと言えるのです。その他にも、泡(異物)はコントラストを低下させたり、複数枚数で構成している最終レンズに泡(異物)がある場合は、画像に映り込むこともあります。
本当は、「最大許容寸法をもつ泡及び異物の許容個数」×「面積(スケール)」にしたいけど、面積だと小数点の桁数が多くなるので、「段階数」で代用させているというわけですね??
そういうことになります。
そう言えば、図3で0.006よりも小さい数字が空白になってますね。
6μmよりも小さい泡(異物)は目視で確認するのが難しいからですよ。また、通常のレンズの使い方だと、この辺は無視しても性能上問題ないと考えられます。
泡とか異物が発生するのは、なぜなんですか??
泡というのはガラスの精製工程で発生する残留ガスや、樹脂レンズの成型工程で発生する気泡のことです。一般に、泡のまったくないガラスを精製することは難しいと言われています。


図7.泡

異物は、不純物の析出したもの、或いは局所的に結晶化してしまったものなどです。
でもな〜。教授。応力複屈折公差で見たように、数値で指定したということは、泡と異物の公差も定量的に評価しろ、ってことになりますよね??
そうですね。
いちいち、泡(異物)の寸法を測定して個数をカウントするなんて手間、かけますかね??
ガラスレンズの場合は、基本的にガラスを購入して研磨加工するので、寧ろ材料選定の基準として図面に指示された公差を利用すると思います。
樹脂レンズの場合は??
図4のように光を照射すれば、泡や異物は輝点として目視することができますからね。わざわざ寸法を測って云々ということはやらないでしょう。一般的には外観検査で処理するはずです。
そうすると、実際の測定の運用と図面のギャップを埋めるために、やっぱり注記に「検査仕様書を別途発行する」と書いておくわけですね。
樹脂レンズの場合は、やむを得ないでしょう。

〜散乱のいろいろ -Rayleigh散乱- 〜
教授。散乱って、市販されている教科書を見ても、あまり載ってませんね。
専門の教科書はありますが、一般的な光学の入門書には取り上げられませんね。
なぜですか??
難しいからです。非常に高度な数学が必要になりますし。
どおりで、上の議論で数学が出てこなかったわけだ。
散乱現象は大きく3つに分類でき、ここで取り上げるべきはMie散乱になるんですが、登場する関数としては、Riccati-Bessel関数、Legendreの陪関数、Hankel関数などがあります。
う〜ん。1つも聞いたことがない関数ですね。
まず、準備として、それらの関数の説明から入らないといけないんですが、その段階で、このレクチャーの読者から総スカンを喰らうでしょう。
ただでさえ、読んでもらえてるかどうか分からないのに、そのうえで総スカンでは哀しくなりますね。
というわけで、ここで取り上げるような代物ではないんです。
何かと言うと、すぐ数学を振りまわす教授がそこまで言うからには、よっぽど難しいんでしょうね。
ですが、散乱そのものは身近な現象ですし、定性的に議論する分には難しくありません。
散乱現象は3つに分類できると言いましたね??
散乱させる粒子の直径を\(d\)、入射する光の波長を\(\lambda\)としたとき、
\[ {\alpha} = \frac{ {\pi} d }{\lambda} \] で表される\(\alpha\)を粒径パラメータと呼びます。このパラメータについて、
\(\alpha \ll 1\) Rayleigh散乱
\(\alpha \fallingdotseq 1\) Mie散乱
\(1 \gg \alpha\) 幾何光学的散乱
というように分類するのです。
名前からして、あんまり身近に感じませんけど…。
そんなことないですよ。Rayleigh散乱から見ていきましょうか。
Rayleigh散乱は、Mie散乱の近似解として与えられますが、Maxwell方程式からも導出することができます。と言っても、この導出も大変は大変です。結果的に、散乱光強度\(I\)は、
\[ I\left({\theta}\right) = \frac{ I_0 {\pi}^4 d^6 }{8 R^2 {\lambda}^4} \left( \frac{ n^2 - 1 }{ n^2 + 2 } \right)^2 \left(1+\cos^2{\theta}\right) \] というようになります。ここで、\(I_0\)は入射光強度、\(\theta\)は散乱角、\(R\)は粒子からの距離、\(n\)は粒子の屈折率です。
結果の見た目は、ただの四則演算なんですけどね。
まず、Rayleigh散乱で覚えておくべきなのは、散乱光強度分布です。


図8.Rayleigh散乱
前方散乱と後方散乱で、散乱の様子が対称形ですね。
それと、数式から分かるように、波長の依存性が非常に強いです。波長が短いほど、散乱の効果は顕著になります。
う〜ん。でも、そういうことが分かっても、あんまり嬉しくないです。
これが理解できると、どうして空は青いのか、という問いに答えることができますよ。
え??それは知っておきたいです。
まず、太陽から放射される電磁波は、さまざまな波長のものが含まれています。それが地球に到達すると、大気圏中の窒素分子や酸素分子と衝突し、そこでRayleigh散乱が起こるのです。ところが、可視光領域のうち、波長の短い方が散乱の効果が顕著なので、赤側の光はそのまま大気を抜ける成分が多く、青側の光が空の色として残るわけです。


図9.空が青い理由

これが、空が青く見える理由です。
ということは、海が青いのは、空の青色が反射しているから、ってことですね??
それも理由の1つです。ただ、それだけで説明するのは、厳密には不充分です。
あれ??そうなんですか??
よく思い出してみてください。海の色は、浅瀬でも青色をしてますか??
うっ。そう言われてみると、深くなるにつれて青くなっているような気が…。
実は、海の中に浸透した光は、水の固有振動数と共振を起こしやすい赤色の波長から吸収されていきます。なので、深くなればなるほど、青色の成分しか残らない。だから、海の色は青くなっているわけです。
なるほど。そういういくつかの理由の総合で、海の色が決まっているわけですね。
もう1つ。夕方(朝方)になると空が赤くなるのもRayleigh散乱によるものです。
何と。
夕方(朝方)になると、地球に対する太陽の入射角度は浅くなっていきます。従って、光は大気中に長く留まるのです。


図10.夕焼けが赤い理由

そうすると、散乱した青側の光のエネルギーはどんどん減衰し、逆に地上に到達できなくなります。日の出・日の入りの空が赤くなるのは、そのためです。
上手くできてますねぇ。メカニズムそのものはミクロな話なのに、現象は地球スケールっていうのが、とても面白いです。
ちなみに、北欧系の人は青い瞳の人が多いですよね??あれは、メラニン色素の量が問題になるんですが、メラニン色素が多いと光が多く吸収されるので、瞳の色は黒くなります。一方、メラニン色素が少ないと光が多く散乱されるので、瞳の色が青くなります。あれもRayleigh散乱が原因なんですよ。
へぇ。Rayleigh散乱のtopicsって、いろいろなところに転がっているんですね。
ちなみに、メラニン色素が最も多いのが黒人ですから、瞳の青い黒人というのはいません。
トリビアですね〜。

〜散乱のいろいろ -Mie散乱- 〜
さて、次はMie散乱です。この散乱光強度\(I\)は、
\[ I\left({\theta}\right) = \frac{ I_0 {\lambda}^2 }{8 {\pi}^2 R^2 } \Bigl\{ i_1\left({\theta} \,,\ n \,,\ {\alpha}\right) + i_2\left({\theta} \,,\ n \,,\ {\alpha}\right) \Bigr\} \] というようになります。ここで、\(i_1\)と\(i_2\)は直交する2つの偏光成分を意味し、いずれも\(\theta\)、\(n\)、\(\alpha\)の関数になっています。\(n\)は粒子の複素屈折率です。
複素屈折率??
吸収を考慮した屈折率の表記方法です。複素数で表すので、そのように呼ばれます。
さっきの難しそうな関数が見えませんが…。
\(i_1\)と\(i_2\)の正体が明かされてないですよね??実は、これを書き下すとRiccati-Bessel関数だとかが登場します。但し、この散乱光強度の公式は、粒子が理想球形である場合の厳密解だ、という点に留意しなければなりません。
任意の形状の粒子については解けないってことですか??
Mie散乱の領域というのは、Rayleigh散乱や幾何光学的散乱のような近似が使えないんです。そして、近似が使えない領域の厳密解は、取り扱いが容易なモデルを想定しないと、たいてい求めることができません。だいたい理想球形の厳密解にしたところで、結局はコンピュータで数値計算しないと、どうにもなりませんしね。
う〜ん。だったら、わざわざ苦労して厳密解を求めなくてもいいのに…。
しかし、厳密解があればあったで、そこからいろいろ有益な情報を得ることができるのも事実ですからね。
Mie散乱の散乱光強度分布はどうなっているんですか??
図11のようになっています。


図11.Mie散乱
Rayleigh散乱とはずいぶん様相が違いますね。
そうですね。かなり指向性の強い散乱になっているのが特徴です。また、この分布の傾向は波長によって大きく変わることはありません。
Mie散乱からどんなことが分かるんですか??
例えば、雲が白い理由が分かります。
今度は雲ですか〜。
空気中にはエアロゾルと呼ばれる浮遊微粒子が存在します。雲は、これに空気中の水が凝結した雲粒から構成されていますが、それがだいたい直径3〜10μmです。従って、雲粒に太陽光が照射されると、すべての波長成分が、同一方向に強い指向性をもってMie散乱されることになるのです。結局、それらのすべての波長成分が重なって、更に雲の中で繰り返して反射されて目に届くので、白く見えるというわけです。


図12.雲が白い理由
霧やタバコの煙が白いのも、Mie散乱の影響ですか??
タバコは、副流煙の平均粒子径がサブミクロンなので、Rayleigh散乱に近くなりますね。なので、紫側の光を強く散乱することになります。よく、ハードボイルド小説などで「紫煙をくゆらす」というような表現を使ったりしますが、これはRayleigh散乱を視覚的に捉えたものと考えることができます。
微粒子が空気中に多くなりスモッグと呼ばれる状態になると、全体的に空が白っぽく見えることがありますが、これもMie散乱の影響が顕著になったのが原因です。


図13.紫煙
ハードボイルド小説なんて、教授に最もそぐわないジャンルですね。
…。化学の授業で、コロイド溶液に光を照射したとき、その通路が横からでも観察できる現象をTyndall現象と習ったと思いますが、これもMie散乱です。


図14.Tyndall現象
あ〜。何かかすかに記憶にありますね。
ちなみに、非常に高い位置に雲ができると、図15のように雲が青っぽく見えることがあります。


図15.青雲

これは、雲粒でMie散乱された光が地表に届く間に、Rayleigh散乱の影響をどんどん拾ってくるためで、青雲と言ったりもします。
お線香の商標登録??
歴とした日本語ですよ。"青雲の志"なんて言ったりしませんか??要するに、雲が青く見えるくらい高い志ってことです。
私にピッタリの言葉ですね。
…。Mie散乱は、実用化の部分でも幅広く応用されています。
上手い使い方、ありますかね??
例えば、花粉を数えたりするparticle counterの簡易的なものは、Mie散乱の原理を使っています。
え??Mie散乱で花粉の数が分かるんですか??
予め、粒子の個数が既知のサンプルで、ある散乱角と距離における散乱光強度を取得しておくんです。この関係式が分かっていれば、その日の花粉飛散量は、散乱光強度から逆算できますよね??
かなり古典的な方法ですね…。
数値計算するよりも、こっちの方法の方が手っ取り早いですからね。
他にも、インクジェットのノズル詰まりの検知などに応用されています。
センサですね。
原理は、こっちの方がもっと簡単です。


図16.ノズル詰まりの検知方法

要するに、ノズルが詰まってなくて適正な液滴が吐出されていれば、そこにレーザ(LD)を照射したときに、正面の光量は低下しますよね??それを検知する方法が1つあります。或いは、適当な散乱角のところにディテクタ(PD)を設置しておけば、散乱光が検出できる。そっちでも、ノズル詰まりをチェックできます。
カラーインクでも可能ですか??
可能です。理論的には超難解なMie散乱も実用化のうえでは、いろいろなところに役立っているのです。

〜散乱のいろいろ -幾何光学的散乱- 〜
最後は、幾何光学的散乱ですね。
粒子の大きさが極めて大きくなると、一般的な屈折・反射・分散という現象が見られることになります。これが幾何光学的散乱です。


図17.幾何光学的散乱
ここまでくると、現象としては身近になりますね。
より身近になるように、幾何光学的散乱を使って虹の発生メカニズムを解明してみましょう。


図18.虹
綺麗ですねぇ。虹、大好きです。
空気中に、図19のように粒径の大きな水滴が浮いている状況を考えてみてください。


図19.虹の発生メカニズム

この水滴に太陽光が入射すると、水滴の中で分散が生じて、各波長の光がいろいろな方向に飛び出してきます。このとき、実は指向性の最も強い偏角というのが、波長ごとに決まっています。
教授。偏角とは??
入射した光線の方向ベクトルと、出射した光線の方向ベクトルのなす角です。


図20.水滴内で1回反射した光路の幾何関係

図20で、光は水滴内でP→Q→Rという光路を経て飛び出してきたと考えましょう。このとき、点PでSnellの法則が成立します。
水滴の屈折率を\(n\)とすると、
\[ \sin \phi = n \sin \psi \quad \Leftrightarrow \quad \psi =\sin^{-1}\left(\cfrac{\sin \phi}{n}\right) \]
ここで、△OPQは二等辺三角形なので、\(\angle {\rm OPQ} = \angle {\rm OQP}=\psi\)です。また、\(\angle {\rm OPS} = \phi\)ですから、△PQSに注目すると、
\[ \angle {\rm OQP} = \angle {\rm QPS} + \angle {\rm PSQ} \quad \Leftrightarrow \quad \angle {\rm OQP} = \angle {\rm OPS} - \angle {\rm OPQ}+ \angle {\rm PSQ} \\ \Leftrightarrow \quad \psi = \phi - \psi + \cfrac{\theta}{2} \quad \Leftrightarrow \quad \theta=4\psi - 2\phi=4\sin^{-1}\left(\cfrac{\sin \phi}{n}\right)-2\phi \] となります。この関数が極値となる\(\phi\)はいくつですか??
\(\phi\)で微分すればいいかな。
\[ \frac{d\theta}{d\phi}=\cfrac{4\cfrac{\cos \phi}{n}}{\sqrt{1-\left(\cfrac{\sin \phi}{n}\right)^2}} -2 =0 \quad \Leftrightarrow \quad 2\cfrac{\cos \phi}{n} = \sqrt{1-\left(\cfrac{\sin \phi}{n}\right)^2} \\ \quad \Leftrightarrow \quad 4\left(\cfrac{\cos \phi}{n}\right)^2 = 1-\left(\cfrac{\sin \phi}{n}\right)^2 \quad \Leftrightarrow \quad 4\cos^2 \phi = n^2-\sin^2 \phi \\ \quad \Leftrightarrow \quad 4\cos^2 \phi = n^2-\left(1-\cos^2 \phi\right) \quad \Leftrightarrow \quad 3\cos^2 \phi =n^2-1 \\ \quad \Leftrightarrow \quad \cos^2 \phi = \cfrac{n^2-1}{3} \quad \Leftrightarrow \quad \phi = \cos^{-1} \sqrt{ \frac {n^2 -1}{3} } \]
つまり、この入射角のときに、多くの出射光が目に届くということになります。
水の屈折率は1.33くらいだから、計算すると\(\phi\)=59.58°ですね。だから、偏角\(\theta\)=42.52°です。
厳密には、屈折率は波長依存性があり、\(\lambda\)=650nm(赤色)で\(n\)=1.331、\(\lambda\)=400nm(紫色)で\(n\)=1.339です。それぞれ、偏角\(\theta\)\(\)=42.37°、偏角\(\theta\)\(\)=41.21°になります。
そうか。そこで色分解されるわけですね。
しかも、太陽光線は地球上に平行に入射し、偏角=42.37°で目に到達する水滴からの分散光はすべて赤色に見えますから、それは円弧状の赤い帯のようになりますね??その事情は、どの波長でも同じですから、結局、虹は同心円状に色分解されます。
あと、虹は必ず赤が上、紫が下になりますね。
加えて、虹が太陽と反対側にできることも理解できますね。虹の発生メカニズムは、Rene Descartesによって解明されましたが、このような幾何光学的散乱が裏に隠れていたわけです。
でも、教授。虹のロマンチックなイメージが台無しです…。
…。最後は無粋な話になってしまいましたが、泡と異物の公差については、この辺にしておきましょう。


前頁へ 戻る 次頁へ