光学図面の基礎(8)

〜表面欠陥公差〜
先に宣言しておきますが―。
もしかして、今回もつまらないとか??
申し訳ないですが、そのとおりです。それどころか、消化不良で物足りないところが多いと思います。
え〜。帰っていいですか??
そう言うと思ったので、今回は早く帰れるように駆け足で説明します。
このコード番号は5ですね。


図1.要目表(再掲)
まず、表面欠陥公差は4つの欠陥に分けられていることを押さえておきましょう。
それぞれに、公差が規定されるわけですね。
この4つとは、一般表面欠陥コーティング欠陥長いスクラッチ縁の欠けです。
まず、一般表面欠陥から片づけます。
これって、表面の傷のようなものですか??
そうですね。それ以外にも、ブツとか付着粒子などがありますが、そういうものの総称だと考えてください。このような一般表面欠陥の光学性能に対する影響は、散乱だと考えられます。
散乱??あれ??どこかで聞いたような…。
泡と異物の公差でやりましたよ。
あ〜。思い出しました。とすると、一般表面欠陥の公差は、泡と異物の公差と同じだったりします??
そのとおりです。
あれですよね??例の、分かりにくい段階数ってやつ??


図2.段階数と倍数因子の関係(再掲)
そうです。そこでのルールがごっそり、一般表面欠陥に適用されます。
ということは、泡と異物の公差の段階数と、一般表面欠陥の段階数は、同じ図面の中で一致してないとおかしいですね。
基本的にはそうなりますね。どちらも同じ不具合を発生するわけで、単に内部にあるか表面にあるかという場所だけの違いでしかないから、段階数を揃えておくのが合理的でしょう。
しかし、レンズの場合は倍率の問題があります。例えば、システム図面で段階数を指定する場合は、倍率を考慮しないと、単品でのレンズ図面と辻褄が合わなくなります。
ひょっとして、次のコーティング欠陥も同じですか??
まったく同じ考え方を適用させます。
だったら、別個に公差を用意する必要ないような気がしますけど??
そうですね。問題となる欠陥が、レンズ表面上にあるのか、コーティング上にあるのかは見分けがつきませんし、いかなる条件であっても光学的有効径(有効範囲)で一般表面欠陥の公差を満たさないといけないという立場からすれば、コーティング欠陥の規定は煩わしいだけでしょう。ですから、コーティング欠陥を指示している図面を目にしたことは殆どありません。
だったら、教授。ここはさっさと通過しましょう。

〜長いスクラッチ〜
表面欠陥公差で最もナゾ深き公差が、これでしょうね。
闇を感じますねぇ。そもそも、"長い"という表現からして曖昧です。
それについては、2mm以上という定義がちゃんとあります。
2mm以上なら、どこまで長くてもいいんですか??
そう捉えられてもしょうがないですが、ただ、長いスクラッチは一般表面欠陥の1つであると考えると、長いスクラッチの面積は一般表面欠陥の最大面積を超えてはならない、という条件から長さの上限は求められるでしょう。
謎と言うのは??
まず、長いスクラッチの深さが規定されていない点です。
う〜ん。最悪、スクラッチが射出面に突き抜けていてもOKってなっちゃいますね。
そこまで極端になれば、それは最早、表面欠陥とは言えない、という反論は成立しそうですが。
でも、どの深さまでなら表面欠陥とみなせるのか、という部分が曖昧である点には変わりがないです。
それと、長いスクラッチは幅で公差を設定するのですが、これが図2の段階数で運用されている点も謎です。
う〜ん。確かに、倍数因子との関連がないですもんね。
そこです。倍数因子は、段階数を2乗したときに初めて意味を持つ数値です。だから、長いスクラッチを面積で表現したとしても、倍数因子との関連性はありません。そうすると、図2と同じ段階数を運用する必然性がないんです。
だったら、実直に幅が設定できるようにすればよかったのに〜。
そして、その幅ですが、いろいろな図面を目にした限り、どの段階数を採用すればいいのか、設計者は実のところ、よく分かってないのではないか、と思われる節があります。
え〜。でも、図面には記載されてますよ??
つまり、なぜその数値にしているかは不明だけど、たぶんその数値で問題ないだろうという想定の下で、段階数が設定されているのではないか、ということなんですよ。
驚きました。そういう実験はされてないってことですか??
それは例えば、段階数を変えた長いスクラッチをレンズ表面につけて、それぞれの光学性能を評価するというようなことですか??
そうです。
もちろん、初物のレンズだったら、そういう実験を地道に行ったうえで、段階数を決めたりするでしょうけど、少なくとも個人的にやったことはありません。従来の図面を踏襲して、同じ数値を公差として与えてました。
それで問題が発生しなければいいですけど…。
しかし、直感的ですが、小さな産毛がレンズ表面に付着して光学性能に問題があるか、と考えてみると、どうでしょう??
う〜ん。微妙な感じがしますが…??
例えば、集光したレーザビームが産毛に照射されると散乱が起きそうですが、そうでなければ殆ど無視できると思われます。
産毛って、どのくらいの直径なんですか??
だいたい50μm程度です。
そうすると、段階数では0.04とか0.025とかですか…。
というわけで、その辺の段階数が採用されている図面が実質的には多いと思います。
教授。これは確かに消化不良です。
いつか、この数値の妥当性を実験的に証明してください。

〜縁の欠け〜
教授。縁が欠けても、光学性能に問題があるとは思えないんですけど??これって、必要ですか??
例えば、レンズの姿勢保持ができなくなるかもしれませんよね??また、その欠けが経年で深くなってゆき、"割れ"だとか"ヒビ"だとかを発生させるかもしれません。
千丈の堤も螻蟻ろうぎの穴を以て潰ゆ、ってことですね。
韓非子ですか…。しかし、そんな格言、よく知ってましたね…。
縁の欠けも、ひょっとして長いスクラッチと同じ運用ですか??
いえ。まず、縁の欠けは個数の制限がありません。
あるのは段階数だけですか??
そうです。
ん??あれ??そうすると、集中の定義が当て嵌まらないから、縁の全周が欠けても問題ないってことになっちゃいますよ??
額面どおりに受け取れば、そういう解釈になりますね。これもISOやJIS上の不備ではないかと思います。
段階数は、どういう意味になるんですか??
欠けの広がりの最大許容寸法と定義されます。


図3.縁の欠け

ただ、縁の欠けは光学的有効径(有効範囲)に影響がなければ不問でもいいという割り切り方は当然ありますし、記載していないケースもあります。
また、仕様が厳しい車載向けのレンズになると、寧ろ縁の欠けはあってはならないので、"なきこと"と指示することが多いですね。

〜要目表の書き方〜
で、要目表には何を書けばいいんですか??
記載項目の順番を示すと、
 5 / Ns × As ; C Nc × Ac ; L Nl × Al ; E Ae
となります。
4つの欠陥が併記されているわけですね??
そうです。
 Ns × As は一般表面欠陥
 Nc × Ac はコーティング欠陥
 Nl × Al は長いスクラッチ
 Ae は縁の欠け
になります。
s=surface、c=coating、l=long、e=edgeですか…。
ちなみに、C、L、Eは、それぞれコーティング欠陥、長いスクラッチ、縁の欠けの宣言なので、それぞれの公差が必要であれば省略できません。尚、Ns、Nc、Nlはそれぞれの許容数、Aは段階数です。但し、Alは実質的には許容最大幅であり、それを段階数で表記したものになります。
コーティング欠陥は実質的に指示しないということでしたが??
その場合は、
 5 / Ns × As ; L Nl × Al ; E Ae
でOKです。
そうすると、一般表面欠陥の段階数が0.4mmで許容数が3個、長いスクラッチの段階数が0.025mmで許容数が2個、縁の欠けの段階数が1.0mmだったら、
 5 / 3 × 0.4 ; L 2 × 0.025 ; E 1
ですか…。
そうですね。
それぞれは独立させて考えていいのかな??
はい。このように併記して書く場合は、一般表面欠陥とは別に、長いスクラッチを許容することになります。
泡と異物の公差では、"0.16×段階数"以下の小さな泡(異物)は無視する、とかありましたけど??
基本的に同じです。但し、長いスクラッチについては、「"0.25×段階数"より幅の狭いスクラッチは無視」します。
集中は??
「許容可能な欠陥の数の20%以上が光学的有効径(有効範囲)と相似形状の任意の5%面積の小領域に見い出されるとき」集中とみなされます。但し、表面欠陥の総数が10個未満の場合は、「光学的有効径(有効範囲)と同じ表面内の、光学的有効径(有効範囲)と相似形状である任意の5%面積の小領域内に、2個以上の表面欠陥があるとき」集中とみなされます。
ずいぶんとまわりくどい表現ですね…。
ついでに言っておくと、一般表面欠陥は、その幅を制限してもよいことになっています。
その場合は、要目票の書き方が変わるんですか??
そうですね。
 5 / Ns × As ; W Aw ; C Nc × Ac ; E Ae
というふうになります。Wは欠陥の幅の宣言、Awは段階数です。
長いスクラッチがありませんけど??
欠陥の幅を決めてしまうと、Asとの兼ね合いで、欠陥の許容できる長さが自動的に決まってしまうからですよ。
つまり、一般表面欠陥の段階数が0.25mmで許容数が1個、許容最大幅が0.04mmだったら、
 5 / 1 × 0.25 ; W 0.04
となるけど、最大許容面積で考えると0.0625mm2なので、長さは0.0625÷0.04から1.6mmが許容最大ってこと??
そういうことになります。
それにしても、教授。講座の内容がどんどん味気なくなっていくんですけど…??
でも、次が最後です。
次も駆け足でお願いしま〜す。


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