光学図面の基礎(7)

〜偏心公差〜
今度は偏心か…。コード番号は4ですね。


図1.要目表(再掲)
偏心の数はいくつあると思いますか??
う〜ん。シフトで\(X\)、\(Y\)、\(Z\)(光線の進む方向)。チルトで\(\alpha\)(\(X\)軸周りの回転)、\(\beta\)(\(Y\)軸周りの回転)、\(\gamma\)(\(Z\)軸周りの回転)。全部で6軸ですね。
Perfectです。が、対象としているレンズが球面レンズの場合は、本質的に1つしか偏心は存在しません。
ん??何だか頓智みたいですね。\(\gamma\)チルトは回転対称形だから不要というのは分かりますけど…??
例えば、図2の左図のようなレンズがあって、入射面が頂点S1を中心に\(\beta\)(或いは\(\alpha\))だけチルトしたとしましょう。

    
図2.チルト偏心
ほら〜。チルト偏心は定義できるじゃないですか〜。
しかし、回転対称形のレンズの光軸の定義って何でしたっけ??
両面の曲率中心を結んだ直線、でしたね。
そうすると、チルトしたらしたで、入射面の曲率中心O1と射出面の曲率中心O2を結べば、新たな光軸が定義できませんか??


図3.新たな光軸
ムムム。言われてみれば、そうですね…。
そして、曲率半径は変わってないわけですから、結局、オリジナルに対して何が変わったかというと―。
分かった!!肉厚ですね。
そういうことになります。この事情は\(X\)、\(Y\)シフトでも同じことです。肉厚が変わったということは―。
偏心は光軸方向のシフト(\(Z\)シフト)だけだ、ってことですね。
正解です。つまり、球面レンズは肉厚公差だけが存在するということになります。
ん〜。でもな〜。何か違和感ありますね。
どこに違和感を覚えますか??
だって、そもそもの肉厚って、オリジナルの光軸に沿ったレンズ面の間隔ですよね。偏心したとしても、肉厚はオリジナルの光軸に沿って測定したいです。
そうですね。そういう意味では、図3の考え方は少し詭弁っぽいところがあるんです。この違和感は、偏心を定義するときに、基準をどこに取っているのかという宣言が抜けているところから来ていると思われます。
そうすると、まず偏心を定義する基準が必要ってことですね。
そういうことになります。回転対称形のレンズなら、球面レンズに限らずオリジナルの光軸を基準に取りたくなるでしょう。
ん〜。でも、光軸って仮想的ですよね??それを実際のレンズで求めるのは大変だと思います。
そこで、それに代わる実体的な基準を定義する必要があります。それが、最初にやった―。
データムだ!!
そういうことです。例えば、


図4.データムの例

というような図面があった場合、基準となる軸は、まず射出面の曲率中心を求めたうえでの、外形の中心線ということになります。これをデータム軸と呼びます。
これで、測定するレンズの姿勢が決まるから、この姿勢に対して偏差が測定できるわけですね。
そういうことになります。
でも、回転対称形だと、回転方向の基準は決まらないのか…。そうすると、シフト偏心は\(X\)と\(Y\)の区別がつかないし、チルト偏心は\(\alpha\)と\(\beta\)の区別がつかないですね。
それどころか、球面だと、シフト偏心とチルト偏心の区別もつきません。
ん??頓智、再びって感じですね…。
例えば、図2で見たチルト偏心ですが、これは図5の右図のように、入射面の頂点S1が\(X\)シフトしたと捉えることもできませんか??

    
図5.チルト偏心かシフト偏心か
な〜るほど。そうすると、どっちかで偏心を規定すればいいわけですね??
一般にはチルト偏心で規定します。
これ。要目表には、どう記載するんですか??
 4 / 3' AB
というように記載します。最大許容傾き角と、基準として適用されるデータムを指定するのです。
角度は、「'」が分で、「"」が秒ですね??
はい。ただ、以前「'」とか「"」は図面をコピーする過程で記号が擦れてしまい、区別がつかないという加工区側の指摘があり、"分"とか"秒"で記載したことがあります。なので、状況に応じて使い分けるとよいでしょう。結局、「設計者の意図を正しく伝えることが本質」という製図の"心"がブレなければいいわけですから。

〜回転対称非球面レンズの場合〜
回転対称形でも非球面の場合は、チルト偏心とシフト偏心が等価であるとは言えませんよね??
そうですね。非球面の場合は、頂点が定義できますからね。
その定義は、回転軸と交わる点でいいんですか??


図6.非球面の頂点とは
たいていの場合は、それで問題ないと考えられます。このとき、データム軸に対する頂点(回転対称点)のずれ量(横変位)としてシフト偏心が、テータム軸に対する回転軸の傾き角としてチルト偏心が定義できます。


図7.非球面の偏心
そうすると、球面のような要目表の書き方では不足しますね。
そこで、回転対称非球面の場合は、
 4 / 3' (0.05) AB
というように記載します。このケースでは、A-B基準で最大許容傾き角は3'、最大許容横変位量が0.05mmと読むことができます。
ん〜。でもな〜。何か違和感ありますね。
また、違和感ですか??
だって、冒頭で教授は、偏心は6軸あるって言いましたよ。例えば、入射面が\(X\)シフトして、射出面が\(Y\)シフトしていたら、横変位はどう表現すればいいんですか??
入射面と射出面は独立に公差設定するから、問題ないですよ。
え??そうすると、入射面と射出面の測定基準は違っていてもいいということ??
回転対称形だと回転方向の基準が決まらないから、やむを得ないと思います。
う〜ん。確かにそうだけど…。そうかぁ…。だから、傾き角とか横変位とか、ざっくりした言い方になっているんですね。
\(\alpha\)チルトなのか\(\beta\)チルトなのか、或いはそれとは別の方向に傾いているのか。そういった方向性の問題は、回転対称形の場合は定義のしようがないですし、無意味なんです。
つまり、傾き角3'だったら、方向性を問わず対象のレンズ面は3'以下の偏心に収まってないといけない、という意味になるんですね??
そういうことになります。

〜透過偏心〜
教授。ちょっと気が付いたことがあります。
何でしょう??
入射面も射出面も、偏心については方向性を問わないってことなら、このレンズに光を入射させたときの集光位置は、ある円形の範囲内に収まるんじゃないですか??
いい着眼点ですね。この考え方に基づく透過偏心という公差の与え方が存在します。
JISで規定されているんですか??
されています。但し、この場合はコード番号が14に変わります。


図8.透過偏心
こっちの方が直感的で分かりやすいです。
但し、このような指示だとレンズ面の情報はなくなりますし、長焦点のレンズには不向きです。
一方で、光学性能がレンズの総体として議論されるならば、寧ろこちらの指示の方が好ましいとも考えられます。また、光を入射した結果として公差が規定できるので、検査もやりやすいですね。
透過偏心があるということは、反射偏心もありそうですね??
考え方としてはありそうですが、JISでは規定されてません。
じゃぁ、負レンズはどうするんですか??
負レンズの場合は虚像側の焦点を測定することになります。
教授。透過偏心の場合は、図面にどう記載するんですか??
 14 / 5' (\(\phi\)0.04) AB
のようになります。
ん??5'というのと、\(\phi\)0.04というのがありますけど??
同じことです。透過偏心が\(\theta\)のとき、焦点面での位置ずれ量\(\eta\)は、
\[ \eta = f \tan \theta \] ですから、その2倍が\(\phi\)0.04として記載されています。

〜回転非対称レンズの場合〜
球面、回転対称非球面と進んできたので、いよいよ回転非対称面の偏心なんですけど??
基本的な考え方は同じですね。
でも、回転非対称面の場合、方向を規定しないといけないですけど??
例えば、\(XY\)平面の投影図が長方形の場合だと、長手方向、短手方向で充分通じますし、図面に\(XYZ\)座標系を定義して、方向を規定してもいいと思います。
透過偏心を使ってもいいんですか??
JISでは、「透過偏心は、回転対称な面に関してだけ定義される」と明記されていますが、加工区との誤解がなければ、広義に展開しても構わないと思います。それと、回転対称形では意味のなかった\(\gamma\)チルトも重要な公差になりますね。
そうか。レンズ面に母線が定義できると、その傾きが\(\gamma\)チルトになるわけですね…。このときも、透過させた光で測定することは可能ですか??
できますね。例えば、図9のようなシリンドリカルレンズの場合、母線に沿って結像されるので焦線が得られるわけですが、母線が傾けば焦線も傾きますよね??


図9.シリンドリカルレンズ

だから、"焦線傾き"という形で公差を記載するやり方は成立するはずです。こちらの方が、光学面の母線を測定するよりも楽ですし。
教授。今回の講座も―。
つまらなかったですか??
物凄く。
仕方がありませんね。何か面白いネタを読者から募りましょう。
面白ネタがあったら、こちらにメールくださいね〜。


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