1.8 屈折率

〜屈折率とは〜
光が異なる媒質の境界面で屈折するというのは知ってますか??


図1.8.1 光の屈折
Snellの法則ですね。


Willebrord Snell(1580〜1626)
入射側の媒質(=媒質1)を真空(屈折率=\(1\))としたとき、式で表現してみてください。


図1.8.2 Snellの法則
媒質2の屈折率を\(n\)、入射角を\(\theta_1\)、屈折角を\(\theta_2\)とすると、 \[ n = \frac{ \sin \theta_1 }{ \sin \theta_2 } \tag{1.8.1} \] こうかな。
幾何光学では、屈折率の定義はSnellの法則そのものになります。これを波動光学的な観点で定義し直してみましょう。
波動光学だと定義が変わるんですね??
はい。まず、図1.8.3を見てください。


図1.8.3 屈折率を再定義
平面波が入射しているってことですね??
そうです。では、屈折した後の光はどうですか??
やっぱり、平面波だと思います。
とすれば、AとB、A'とB'で位相が整合してないとおかしいですね??
ん??位相が整合している、とは??
例えば、蛇腹ホースを思い浮かべてください。


図1.8.4 位相整合

このとき、図1.8.4のように縮んでいる部分と延びている部分で、蛇腹の山の箇所(aとa'、cとc'、eとe'、gとg'、iとi')、谷の箇所(bとb'、dとd'、fとf'、hとh')は1対1に対応してますよね??
ふむふむ。
こういうような状況を位相が整合していると言うのです。
なるほど。
とすれば、図1.8.3において、AA'とBB'の伝搬時間は一致してないとおかしいです。
つまり、真空中の光速\(c\)に対して、媒質2の光速を\(v\)とすると、 \[ \frac{ \overline{\rm AA^{\thinspace \prime} } }{ v } = \frac{ \overline{\rm BB^{\thinspace \prime} } }{ c } \] ということですね??
これを変形すると、こうなります。 \[ \frac{ \overline{\rm AB^{\thinspace \prime}} \sin \theta_2 }{ v } = \frac{ \overline{\rm AB^{\thinspace \prime}} \sin \theta_1 }{ c } \quad \Leftrightarrow \quad \frac{ \sin \theta_2 }{ v } = \frac{ \sin \theta_1 }{ c } \quad \Leftrightarrow \quad \frac{ c }{ v } = \frac{ \sin \theta_1 }{ \sin \theta_2 } \tag{1.8.2} \]
お。式1.8.1と式1.8.2を合わせると、 \[ n = \frac{ c }{ v } \tag{1.8.3} \] だから、ひょっとして、これが新しい屈折率の定義だったりして??
そうです。波動光学的には、屈折率は真空中と媒質中の光速の比で定義されるということになります。
この速度は位相速度ってことですね。
はい。更に、式1.4.7から、 \[ n = \frac{ c }{ v } = \sqrt{ \frac{ \varepsilon \mu }{ \varepsilon_0 \mu_0 } } = \sqrt{ \varepsilon_r \mu_r } \tag{1.8.4} \] ここで、\(\varepsilon_r=\cfrac{\varepsilon}{\varepsilon_0}\)、\(\mu_r=\cfrac{\mu}{\mu_0}\)をそれぞれ比誘電率比透磁率と言います。更に、一般に可視光領域において誘電体の比透磁率は\(1\)なので、近似的にはこのように書けます。 \[ n \approx \sqrt{ \varepsilon_r } \tag{1.8.5} \]
どうして、比透磁率は\(1\)なんですか??
その理由については後ほど説明しましょう。
あれ??ん??ちょっと待ってください。\(\varepsilon_r<1\)だと、媒質2の光速が\(c\)よりも大きくなりますけど??
そうですね。
え〜。それっておかしくないですか??だって、Einsteinの特殊相対性理論によれば、いかなるものも光速より速く移動することはできないんですよね??
そうですよ。
だったら、矛盾してるじゃないですか!!
実は、Einsteinが特殊相対性理論を発表したときの反証として、同じような疑義を呈した研究者はたくさんいました。
ほら〜。
しかし、この矛盾はBrillouinによって解決されています。波動の速度には種類があるという話は覚えていますか??


Lèon Nicolas Brillouin(1889〜1969)
位相速度、群速度っていうのは聞きましたけど。
そうです。しかし、もう1つ重要な速度として波頭速度というのがあります。通常、真空中の光の伝搬を考える場合、これらの区別は必要ありません。そもそもの誤解は、この辺の混同から生じていると思われます。
波頭速度??波の先端の速度ってことですか??
意味はそうです。そして、光速で移動する云々と言ったとき、光と比較される「移動する実体」とは何か、という考察が重要で、この議論の中では、その肝心な部分が抜けています。
実体??う〜ん。光速で移動してほしいもの…。
それは情報です。つまり、情報は光速を超えて伝達させることができない、と解釈するのが正しい。
ということは、情報の伝達は、位相速度、群速度、波頭速度のどれに関連づけられるか、という問題ってこと??
はい。情報の伝達と関連するのは波頭速度だ、という部分がポイントです。Brillouinが証明した(論文)のは、
 @光速を超える/超えないを議論する場合には、波頭速度を対象としなければいけない
 A波頭速度は光速を超えることはない
 BだからEinsteinの特殊相対性理論には矛盾はない
ということですね。
ということは、位相速度も群速度も光速を超えることがあり得る??
あり得ます。実験的にも確認されてますし。とは言っても、通常の議論においては、そういう面倒なことは出てこないので、位相速度=群速度=波頭速度と考えて構いません。
う〜ん。Einsteinを超えるniceな着眼点と思ったんだけどなぁ。

〜Fermatの原理〜
屈折率に関する別のアプローチも紹介しておきましょう。例えば、川で子どもが溺れています。どうしましょう??
私、泳ぎには自信ありますからね。俄然、助けに行きますよ!!
素人がむやみに救助に向かうと、二次災害を招くリスクがあるので、このときの正解は直ちに119番ですが、今回は特例措置ということで進めましょう。
教授の講座は特例措置が多いですね。
さて、できるだけ早く救助に向かわなければいけません。どういうルートをとりましょうか??
私のいる位置Aと、溺れている子供の位置Bを直線で結んだルートじゃないですか??それが最短ですし。


図1.8.5 最短時間経路問題(1)
でも、泳ぐスピードより、走るスピードの方が速いですよね。とすれば、泳ぐ距離は短い方がよくないですか??
う〜ん。言われてみればそうですね。そうすると、図1.8.6??


図1.8.6 最短時間経路問題(2)
図1.8.6だと、距離が伸びすぎて不利じゃないですかね??
なるほど…。とすれば、概ね図1.8.7みたいな感じ??


図1.8.7 最短時間経路問題(3)

でも、Pの位置はよく分からないですけど。
では、点Pを数学的に求めてみましょう。まず、点A→点P→点Bに掛かる時間\(t\)を求めてください。
ん〜と。 \[ t = \frac{ \overline{\rm AP} }{ v_{\rm run} } + \frac{ \overline{\rm PB} }{ v_{\rm swim} } = \frac{ \sqrt{ \left( x_{\rm a} - x \right)^2 + {y_{\rm a}}^2 } }{ v_{\rm run} } + \frac{ \sqrt{ \left( x - x_{\rm b} \right)^2 + {y_{\rm b}}^2 } }{ v_{\rm swim} } \]
次は、\(x\)で微分です。
こうかな。 \[ \frac{ dt }{ dx } = - \frac{ x_{\rm a} - x }{ v_{\rm run} \sqrt{ \left( x_{\rm a} - x \right)^2 + {y_{\rm a}}^2 } } + \frac{ x - x_{\rm b} }{ v_{\rm swim} \sqrt{ \left( x - x_{\rm b} \right)^2 + {y_{\rm b}}^2 } } \]
\(\theta_1\)と\(\theta_2\)を使って表現できませんか??
あ、できますね。 \[ \frac{ dt }{ dx } = - \frac{ \sin \theta_1 }{ v_{\rm run} } + \frac{ \sin \theta_2 }{ v_{\rm swim} } \]
最短時間を求めるのは極値問題ですから、\(\cfrac{dt}{dx}=0\)を解けば、点Pが満たすべき条件が得られます。
つまり、 \[ 0 = - \frac{ \sin \theta_1 }{ v_{\rm run} } + \frac{ \sin \theta_2 }{ v_{\rm swim} } \quad \Leftrightarrow \quad \frac{ \sin \theta_1 }{ v_{\rm run} } = \frac{ \sin \theta_2 }{ v_{\rm swim} } \quad \Leftrightarrow \quad \frac{ \sin \theta_1 }{ \sin \theta_2 } = \frac{ v_{\rm run} }{ v_{\rm swim} } \] 教授。こんな計算している間に、子どもは溺死するように思うんですけど…。
ま、それはそうなんですが、この式と式1.8.2を比較してみてください。 \[ \frac{ c }{ v } = \frac{ \sin \theta_1 }{ \sin \theta_2 } \tag{1.8.2} \]
う〜ん…。ん??あれ??そっくりですね。
つまり、ここで分かったことは、点Aと点Bを最短時間という条件下で結ぼうとすると、Snellの法則が導かれるということです。もっと言えば、光は瞬時に最短時間となる経路を選択して伝搬するのです。
光の方がずっと賢いってことじゃないですか!!
というか、自然はそのように設計されているらしい、ということですよ。これを発見者の名前をとってFermatの原理と言います。


Pierre de Fermat(1607〜1665)
原理―。ってことは、どうしてそうなっているのか、ということは説明できないんですね??
はい。しかし、これを受け入れると、屈折率が均一な空間では光は直進するとか、反射するときは入射角と反射角が等しくなる、といった一連の法則が、ある意味、必然のこととして導くことができます。
う〜ん。確か…に―。ん??教授。Fermatの原理、何か変ですよ。
変ですか??
だって、光が最短時間の経路を選択するためには、境界面の先の情報を知っておく必要があるじゃないですか。どうして、光は屈折率の情報が分かるんですか??
なるほど。なかなか鋭い指摘ですね。
でしょ??
たいていの人は、以上の説明で納得するんですが、そうはいきませんか。
私は騙されませんよ〜。
騙すつもりは毛頭ないのですが、確かにその疑問は合理性があるようにも思えます。では、その疑問を解消するために、以下のようなことを考えてみましょう。2次元的に捉えると、光源Sから放射した光は同心円状に広がっていきますから、その光は境界面のP1に最初に到達する、ここまではいいですよね??


図1.8.8 光源Sの波面は、最初にP1に到達する
いいですよ。
そして、時間が経つに従い、P2、P3、…、P6、…というように、連続的に境界面に波面が到達します。更に、Huygensの原理によれば、点Pを仮想的な波源として、第2次波が生じます。


図1.8.9 時間が経つと、光源Sの波面は、境界面に次々に到達する

P1を波源とした第2次波は、いずれ点Qに到達するのはいいですか??


図1.8.10 P1を波源とした第2次波は、点Qに到達する
OKです。
同様に、P2を波源とした第2次波も、いずれ点Qに到達します。これは、境界面上のすべての点Pについて言えることです。


図1.8.11 P2を波源とした第2次波は、点Qに到達する

そうすると、当然、光源S→境界面P→点Qのパスのうち、最短時間のパスが1つ決まるはずです。そして、そのパスの情報をキャッチしたら、それ以外の情報は無視される、と考えれば自然な形でFermatの原理を解釈することができます。
光はSnellの法則なんて知らないけど、結果としてSnellの法則になってました、ってことですね??
そうです。Fermatの原理があるからSnellの法則が成立するのではなく、Fermatの原理は結果論を述べているにすぎない、という解釈です。
う〜ん。確かに、その説明だと、そのとおりなんだけど、何で最短時間の経路以外の情報は無視されちゃうんですか??
そういうふうに自然が設計されているから、と言うこともできますし、例えばキャッチしたのが人間の目だとすると、最短時間の経路以外の情報は不要なので、脳の方で無視する処理を行っている、と考えることもできます。最短時間の経路以外の情報は無視するように脳が進化した、ということですね。
え??そうなんですか??
それは分かりません。そういう考え方もできる、ということです。
物理学に、人間の認知の話を持ち込むのは、ズルいように思います。
ズルいですか…。あくまで物理学の世界だけで説明しようとすると、更に量子力学の概念を持ち込むしかないでしょうね。
量子力学だったら、可能なんですか??
納得できるかどうかは分からないですが、Feynmanがもっと大胆な説明をしています。


Richard Phillips Feynman(1918〜1988)
この人の発想は、いつも大胆な気がしますけど…。
そうですね。まず、ポイントとして押さえておくべきなのは、量子力学において、粒子がどこに存在するかは確率分布でしか表現できない、という点です。
あ〜、これですよ。こういう考え方をするから、量子力学がイマイチ馴染めないんですよねぇ。
まぁ、そこは一旦、割り切ってください。そのうえで、Feynmanは、量子力学的な観点から、光源Sから放射される光子は、あらゆる経路をとる、と考えるのです。
あらゆる??
そうです。
無数にありますけど。
そうです。
例えば、宇宙の果てまで行く光子もあり得ますよね??
そうですね。尤も、宇宙に果てがあれば、の話ですが。
例えば、その場で何度もクルクル回転している光子とか、何度も立ち止まるような光子もありますけど??
それもOKです。
う〜ん。確かに大胆ですね〜。でも、風呂敷を広げるだけ広げて、収拾がつかなくなるんじゃないですか??
そこが、天才の天才たる所以でしてね。何と、そのすべての経路を足し合わせるのです。
無数にありますけど??足せるんですか??
数学的な詳細は省きますが、足せます。そうすると、あらゆる経路の存在確率が計算されます。
何と!!
そして、その存在確率は、最短時間近傍のパスが支配している、というのがFeynmanの考え方です。
言っていることが分かりませ〜ん。
言い換えると、最短時間周辺のパスが、最も存在確率が高い、ということですよ。
う〜ん。てことは、最短時間だけじゃなくて、それに近いパスも観測できるってことになりませんか??
そうですね。
ん??それどころか、他のパスは低い確率だけど存在するってことにもなりますよね??
そうですね。
え〜。だって、屈折点って、Snellの法則を満たす1点しかないじゃないですか〜。
なるほど。しかし、それは、そもそも光線というものの存在を仮定したときに成立する話ですよね??
そうですよ。
でも、よく考えてみてください。波動光学的には、そもそも光線などというものは存在しません。
ムムム。
そんなものは、極めて人間的で抽象度の高い概念でしかないのです。
それは、そうだけど。
以前、物理学は、人間が自然を理解するためのモデルの構築だ、と言いました。
そうでしたね。
微小な世界では、粒子の存在を確率分布として表現すると理解しやすい、というのが量子力学のモデルです。よって、量子力学的な表象では、光線も確率論で捉える必要があるし、光子の存在確率の最も高い軌跡が幾何光学で言う光線である、と定義し直すのは、不思議でも何でもなく、寧ろ合理的な解釈だと言えるでしょう。


図1.8.12 量子力学的に正しいSnellの法則のイメージ図(赤色が濃い=光子の存在確率が高い)
う〜ん。何か丸め込まれた感じがしますけど…。でも、普通は量子力学のモデルなんて出てきませんよね??
どのモデルを採用するかは、議論する対象のレベルで変えればいいんです。それほど高度なレベルの議論でないところに、量子力学のモデルを用いて、話をややこしくする必要はありませんよね??それは、Newton力学で事足りる議論に、あえてEinstein方程式を持ち込まないのと同じことです。
確かに。
ここでは、Feynmanの考え方の触りを紹介しましたが、『虚数の情緒』という本では、もう少し踏み込んだ説明を読むことができます。
え〜、これ、1,000ページくらいあるんですけど。
でも、複雑な計算式が次から次へ押し寄せてくる専門書とは違って、読みやすいですよ。
本当ですか??
中学生を対象としているようですし。
本当ですか??
建前上は。
ほら〜。
しかし、物事の道理を楽して理解しようとする方が間違ってます。
学問に王道なし??
そういうことです。
Feynmanは、どうして、こんな発想をしたんですかね??
前期量子論と呼ばれる従来の量子力学的な概念に納得できなかったからですね。だから、自分流の新しい解釈を作り出したんですよ。この考えは、経路積分という方法に収斂されます(論文)
でも、すべての経路を許容して、それを足し合わせるなんて、そう簡単に受け入れられない発想ですよね。
はい。だから、当初は物理学会から、単なるご都合主義の計算手法にすぎない、という受け止め方をされていたようですね。
やっぱり。
ところが、その後、経路積分をベースにしたFeynmanダイアグラムという新しい手法を展開し(論文)、素粒子の振る舞いが簡便に記述できることが認知されると、風向きがガラッと変わるのです。
へぇ。
今や、素粒子の振る舞いを理解するのに、Feynmanダイアグラムは普通に使われてますからね。さて、Fermatの原理を定式化しておきましょう。点Aから点Bまでに掛かる時間\(t\)は、光路長の線要素を\(dl\)とすると、 \[ t = \int_{\rm A}^{\rm B} \frac{ dl }{ v } \] と書けますが、両辺に\(c\)を掛けて、 \[ ct = \int_{\rm A}^{\rm B} \frac{ c }{ v } dl = \int_{\rm A}^{\rm B} n dl \tag{1.8.6} \] となり、この極値が\(0\)ということですから、 \[ \delta \int_{\rm A}^{\rm B} n dl = 0 \tag{1.8.7} \] となります。
\(\delta\)??
つまり、点Aと点Bを結ぶ経路を少しだけずらしてみるということです。それでも\(t\)の変化が\(0\)であれば、それは極値ということだから、それこそが求める経路である、という意味ですね。
Fermatって、数学では頻繁に登場しますよね。
そうですね。でも、Fermatは元々裁判官です。
え??数学者でも物理学者でもないんだ。
当時のフランスの法律では、弁護士や裁判官は、賄賂をもらって量刑に手心を加える危険を回避するため、一般人との接触が禁じられていました。だから、仕事が終わると一杯飲みに行くわけにもいかず、夜は暇で暇でしょうがない。その時間潰しのためにFermatは数学を研究していたのです。
趣味??
そんなところでしょうね。この人は、自分の思い付きを数学の教科書の余白に書く癖があったんですが、Gaussとは真逆で、残念ながら厳密に証明することには興味がありませんでした。有名なFermatの最終定理は知っているでしょう??
3以上の自然数\(n\)について、\(x^n+y^n=z^n\)となる自然数の組\((x,y,z)\)は存在しない、ってやつですね。
それも、肝心の証明はなく、「この定理に関して、余は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる」と書いて終わっているのです。


図1.8.13 Fermatの最終定理の直筆の書き込み
余白、結構ありそうですけどね…。
この定理は360年も経って、Andrew Wilesによって肯定的に解決されます(論文)


Andrew John Wiles(1953〜)
てことは、数学の、え〜と、フィ…フィ…。
フィールズ賞ですか??
あ〜、それそれ。フィールズ賞をgetしたんですね??
フィールズ賞はノーベル賞よりも条件が厳しいです。年齢制限がありますしね。
何歳までですか??
40歳以下でないと、受賞できません。
Wilesが証明したのは??
残念ながら42歳でした。
惜しい〜!!
証明には非常に高度な数学が使われているので、現在では、Fermatの余白の書き込みはハッタリだろう、というのが一般的な見方ですね。
Fermatの原理って、とても神秘的で面白いと思うけど、何か遠まわりですね。
確かに、そう思えますが、物理学的にはFermatの原理の方が本質なんです。
でも、そこから導かれるのが光学に限定されているんじゃ、原理と呼ぶにはショボくないですか??
ところが、これと似たような原理が力学の方からも確立されます(論文)。それをMaupertuisの原理と言います。


Pierre-Louis Moreau de Maupertuis(1698〜1759)

これらの考え方は最終的に最小作用の原理という形にまとめられ、LagrangeやJacobi、Hamiltonといった人たちにより変分原理へと発展するのです。


Carl Gustav Jacob Jacobi(1804〜1851)
そういうことか…。
変分原理は物理学において最強の考え方で、これを用いればMaxwell方程式もEinstein方程式も導出することができます。
え??そうなんですか??だったら、変分原理の方を教えてくださいよ〜。
別にいいですが、扱う数学は格段に難しくなりますよ。
え?!?!どのくらい??
これまでよりもギアが3つくらい、あがりますかね。
…。じゃぁ、いいです。
そもそも、最小作用の原理の"作用"っていうのが何だか分からないでしょう??
まぁ、そうですね。
寧ろ、変分原理で重要なのは、例えばMaxwell方程式なら、その方程式を記述できる"作用"を探すことなんです。しかし、残念ながら、"作用"の上手い探し方はありません。
な〜んだ。世の中、簡単にはいかないものですね。
ちなみに、真空中(空気中)から水中に光を入射すると、必ず\(\theta_1>\theta_2\)になるので、\(\sin\theta_1>\sin\theta_2\)です。よって、式1.8.2から\(c>v\)なので、Fermatは「光速は水中の方が遅くなる」と予言しました。この予言は、光は波動であると考えると上手く説明できるので、Fermatは波動説のスタンスだと言えます。
なるほど。
しかし、Fermatと同時代に活躍していた哲学者のDescartesは「光速は水中の方が速くなる」と予言します。


Renè Descartes(1596〜1650)
ムムム。真逆な予言ですけど、その根拠は??
Descartesは、\(\theta_1>\theta_2\)になるのは、水中で光に何らかの力が働いたからに違いないと考えたのです。


図1.8.14 Descartesの考察

力が働けば、Newton方程式から加速度が生じますから、速度は速くなりますよね??
ん〜。それはそれで、説得力ありますね。
図1.8.14は、光を粒子と考えると上手く説明できそうです。よって、Descartesは粒子説のスタンスだと言えます。
派閥問題だ。
残念ながら、当時の技術でこの予言を直接的に確かめることはできませんでしたが、約200年後、この実験的証明に挑戦し成功した人がいます。
誰ですか??
光速を高精度で求めたFoucaultですよ。
お〜。再登場だ。
Foucaultは、光速を求めたのと同じ回転ミラーの実験装置を使い、光路の中に水槽を設置することで、望遠鏡に飛び込んできた光のずれ量が、水槽がないときと比較して大きいことを確認するのです。
Fermatも、草葉の陰から喜んでますね。
光の粒子説、波動説の話は、ちょこちょこ出てきますので、そのときに再び触れたいと思います。


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